ここでは、吸い玉・カッピングの真空ポンプとして重要である、到達真空度と排気量についてご説明します。
到達真空度と排気量
ポンプを選ぶ場合、多くの方がまず参考にするスペックは到達真空度だと思います。到達真空度の値は、そのポンプがカップをどの程度まで減圧できるかという性能を示します。ポンプの性能を説明するには、一番単純でわかりやすいものです。
排気量は少しわかりにくく感じる方も多いようです。排気量は、カップを吸引するスピードと考えてもらうのが一番簡単だと思います。カップを吸引する時に、排気量の多いポンプはそれだけ早く到達真空度に達することができます。
極端な例を挙げると、到達真空度は高いが非常に排気量の少ないポンプは、カップを真空に近づける能力は高いものの、一つのカップを吸引するのに何分もかかってしまう、といったことがありえます。到達真空度はわかりやすい目安ではありますが、排気量も非常に重要な要素です。

『医科学大事典』(講談社、1982年)の「吸角法」の項の「1980年における日本・中国・韓国の比較」によると、電動ポンプは戦後日本において広く普及し、それにより吸い玉の近代化が進み、日本で発展をしてきました。電動ポンプが普及し始めた当時は、かなり強い吸引を推奨されていたようです。そのゆえにかつては、強く吸えば吸うほど良いといった認識が持たれていたようです。
しかし現代では吸い玉・カッピングの研究も進み、強い痛みをともなうような吸引はあまり推奨されなくなってきています(※)。そのため、到達真空度はかつてより重要視されなくなり、それよりも使い勝手の面から考えると排気量の方が重要だと考えられるようになってきています。
排気量の重要さが一番わかるのは、髪の生え際などのカップを吸着しにくい箇所でしょう。通常、そういった箇所を吸引する場合はカップとポンプを繋いだまま持続的に吸引する方法が取られます。カップが外れやすいということはカップと肌に隙間があり、そこから空気が入ってきているということです。その状態でも吸引し続けるためには、入ってくる空気よりも多くの空気を吸引し排出しなければなりません。
そこで排気量が重要になってきます。いくら到達できる真空度が高くても排気量が低いと、この入ってくる空気よりも多くの空気を排気できません。つまりカップが吸着しにくい箇所を吸引できない、ということも起こり得ます。
また、多数のカップを繋いだ状態で一度に吸引する場合、カップの数の分とそれを繋ぐチューブ内の空気を排出しなければならなりません。繋いだカップを一つの大きなカップに見立ててもらうと良いかもしれません。そういった場合でも排気量が大きなポンプでは素早く吸引できますので、使い勝手が良いです。
※強い吸引を推奨しないのは、あくまでも一般的な見地、基本的な施術の考えからのご説明です。吸い玉・カッピングに何十年も携わり熟知している先生ならば、様々なアプローチ方法の一つとして強い吸引を使われることもあるかもしれませんし、患者様の状態にあわせた施術をする技術も持っているでしょうから問題はないと思われます。しかし、吸い玉・カッピングを始めたばかりの先生や一般の方が、結果を求めるがあまりに強く吸引するのは非常に危険です。特に業務でのご使用を考えている場合、強い吸引は患者様の負担が大きいことと、肌へダメージを与える可能性もあることを考慮する必要があります。